私たちのタイムカプセルー8年前の高校生たちが歩む、”福祉の今”ー
県立津久井高校福祉科卒業生
福祉タイムズ創刊888号(2025年11月号)記念号特別インタビュー
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今から8年前の2017年、『福祉タイムズ』791号の表紙を飾ってくれた県立津久井高校福祉科の生徒たち(当時高校2年生)は、今は介護福祉の道で、それぞれの一歩を歩んでいます。
今回、集まってくれた6名に再び取材し、介護福祉職として輝く皆さんの“タイムカプセル”を開きました。
8年前、福祉タイムズの取材を受けた時のことは覚えていますか?
喜田さん:いやぁ、高校の時のことって実はあんまり覚えてなくて…。
田中さん:集合写真を撮ったのは、なんとなく覚えてますね。
他の皆さん:……正直、あんまり(笑)。
喜田さん:夏だったので、撮影の時に蚊がすごい寄ってきて痒かったのは覚えてます!(笑)

8年経って、福祉職や介護に対する学生時代とのギャップはありましたか?
田中さん:新人のころは覚えることがたくさんあって、本当に忙しい毎日でした。私が働いている施設では新しい機械やデジタル技術を積極的に取り入れているので、介助以外にも覚えることが多く、入職した当初はその部分に慣れるのに時間がかかりました。今は使い方を覚えて、便利な物が多くて助かるなぁと思っています。
喜田さん:自分はコミュニケーションが一番の課題でした。学生のときはクラスメイトや先生など、関わる人が限られていましたが、働くようになると、職員同士や他職種の方など、多様な方と連携する必要があるので大変だと感じることもありました。今でも学ぶことは多いですが、利用者さんとお話をする時間はとても楽しくて、日々のやりとりの中で少しずつ自信がついてきているかなと思います。
伊藤さん:学生時代、介護実習がありましたが、お互い学生同士で介助の練習をしていたので、就職して実際に利用者さんに行うとなると、同じ手順でも全然違っていて、すごく苦労しました。
現場では、一人ひとりの身体の状態やペース、声かけのタイミングなども全く違うので、「教科書通り」では通用しないんだなと実感しました。
田中 公樹さん(特別養護老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:キャンプやラーメン屋巡りです!
喜田 行哉さん(特別養護老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:甥っ子にお菓子や好きなものを買ってあげて、喜んでいる姿を見るのが癒やしです。
伊藤 千冬さん(有料老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:お菓子作りです。私が働く施設で夏祭りがあった時、紫陽花をモチーフにしたゼリーを50個くらい作って、利用者さんやスタッフに振舞いました。
横山さん:入職した当初は「利用者さんとお話するのが楽しいな」という気持ちが大きかったですが、長く働くうちに、お看取りの場に立ち会うことも増えてきました。最期の瞬間まで寄り添うというのは簡単なことではなく、自分の気持ちを整えるのが難しいと感じることもありましたが、今はその経験も自分の成長につながっていると思います。
平野さん:働く前は、「利用者さんの安全を守らなければならない」という思いがとても強くて、不安に感じることも多かったです。
でも、実際に働き始めてからは、特養では“看取り”の場面も自然なかたちであるということを知りました。最初は戸惑いもありましたが、だんだんと気持ちの整理ができるようになって、不安や恐怖感よりも「この方の人生にとって大切な瞬間に、立ち会わせてもらっていることがありがたいな」という思いの方が強くなりました。
仕事を通して、人の生き方や家族のつながりの深さに触れる機会をいただいているように思います。
飯田さん:学生時代から介護福祉施設でアルバイトをしていて、実際に介助にも携わっていたので、就職後に大きなギャップを感じることはありませんでした。
ただ、最初に働いた施設では夜勤を一人で担当していたため、そのプレッシャーはとても大きかったです。
その分、「利用者さんを守るぞ」という強い責任感につながっていましたし、学生時代の経験があったからこそ、プレッシャーの中でも落ち着いて対応できたのかもしれません。
横山 愛夏さん(有料老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:ライブに行くのが好きです!
平野 風夏さん(特別養護老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:お酒を飲みに行くこと。最近は編み物にもはまっています。
飯田 結花さん(特別養護老人ホーム勤務)/ 休日の過ごし方:1歳半(取材当時)の子どもと遊ぶのが一番のリフレッシュで、毎日一緒に走り回ってます。
平野さん:あとは、利用者さんとゆっくりお話できるのって、学生の時期が一番多かったなって思いますね。働き始めると、どうしても業務が増えて時間がなかなか取れないなって。将来介護福祉の仕事をしたいと思っている方は、ぜひ実習中に多くの利用者さんとたくさんお話してほしいです。
飯田さん:それ、すごくわかります。私も実習のとき、職員さんに「利用者さんとたくさんお話して」って言われたことがあって。職員さんたちは忙しい時もあるので、実習生が来ると利用者さんのお話相手になれるんですよね。だから今思うと「もっとお話しておけばよかったな」って。あの時間は本当に貴重だったなと思います。
喜田さん:自分の場合は、介助の方法って「ロールプレイングゲーム」と似ているなって思った部分があります。
学校で学ぶのは基礎の部分で、実際に現場に入ると、施設ごとのやり方や先輩の工夫に触れることができます。就職してから少しずつ、それが自分の“初期装備”になっていくような感じですね。いろんな人の介助の仕方や声かけを見て、「自分に合うやり方」を少しずつ身につけていく。そんな風に、今も装備をアップデートしながら成長しているところです。
後輩に「そんなやり方もあるんだ」と気づかされることも多くて、日々アップデートの連続ですね。自分の介護スタイルはまだ完成形ではないけれど、少しずつ“自分らしい形”になってきていると思います。
利用者さんと関わるうえで、意識していることはありますか?
田中さん:距離感ですね。耳の聞こえにくい方だとつい近くで話しちゃうんですが、それを嫌がられることもあるので、気を付けています。あとは、利用者さんの思いをきちんと聞くこと。利用者さんお一人おひとりの悩みや感じていることを、丁寧に聞いて、利用者さんが過ごしやすいようにしています。
喜田さん:自分は「一日に必ず利用者さん全員に一言ずつ話す」を心がけています。食堂に移動している時に挨拶したり「今日は何月何日ですね」と声をかけたり。利用者さんに少しでも笑ってもらえるように意識しながら接しています。
横山さん:私は「話しやすいお姉さん」を目指してます。基本、利用者さんとお話する時は敬語なんですが、少しだけくだけた言い方も混ぜて、利用者さんが話しやすい距離感や空気を作るようにしています。自分がいることで、利用者さんに安心してもらえるといいなと思っています。
平野さん:仕事中、マスクをしていると表情が伝わりにくいので、利用者さんに怖がられてしまわないように、声のトーンや目元で笑顔を表現するようにしています。学生時代に「笑顔が大切だよ」と
よく言われたことを思い出します。
伊藤さん:私の施設では、たとえば「○時から○時までは○○さんのお風呂」「次の時間は別の方のお部屋の掃除」「食事の時間になったら車いすで誘導」みたいに、細かく時間でやるべきことが決まっています。
その合間に、少し時間が空いたら爪を切ってさしあげたり。食堂にいる方にお茶を出して、少し会話をしたりもします。
決められた業務だけでなく、そういうちょっとした時間の関わりもすごく大事だなと思っているので、意識して利用者さんとの時間をつくるようにしています。
横山さん:利用者さんにできるだけ穏やかに、ストレスのない時間を過ごしてもらえるように、先回りして動くようにしています。
普段から、利用者さんお一人ひとりの様子をよく観察して「この方はこの時間にお手洗いに行かれることが多い」など、生活のリズムを覚えるようにしています。
そうすると、「このあと、この方は○時からお手洗いを使われるから、先に別の方をお手洗いにお連れしよう」という風に、少し先を見て動けるようになるんです。
先回りしてスムーズに動けると、その分、自分もゆとりを持って一日を過ごせますし、利用者さんお一人ひとりとゆっくり関わる時間を持てるんですよね。
8年後は、どんな自分になっていたいですか?
喜田さん:今、介護支援専門員(ケアマネジャー)の試験勉強をしているんです。というのも、祖父が認知症を発症した時、家族からいろいろと相談を受けたんですが、介護の知識だけではあまり答えられなくて、もっと広く福祉を学びたいと思ったんです。8年後やもっと先の未来で、家族が年齢を重ねた時に少しでも手助けできるようになりたいです。
田中さん:今はフロアの中でも先輩になってきていて、8年後はもっと“引っ張る側”を任されていると思います。今度うちの施設でお祭りイベントを開催するんですが、運営リーダーを任されているので、みんなをまとめられる存在になりたいですね。
伊藤さん:漠然としているんですが、利用者さんにとって“気持ちの良い介護”、“安心してもらえる介護“を、これからも学び続けていけたらと思います。
横山さん:初心を忘れず、利用者さん一人ひとりと真摯に向き合っていたいです。それが一番大事かなと思います。
飯田さん:8年前の自分からは今の姿も想像できなかったので、8年後もきっと「こんなふうになってるんだ」って思っているはず(笑)。でも、私も初心を忘れず、利用者さんと笑顔で関われる介護福祉職でいたいです。
平野さん:介護福祉の仕事を“好き”でいられる自分でいたいですね。その気持ちを忘れずにいたいです。
福祉タイムズ創刊888号裏表紙撮影時のオフショット。和気あいあいとした雰囲気に、学生時代の皆さんの面影を感じました。
当時、皆さんに介護福祉を教えていた林睦先生にもお話を伺いました!
卒業生の皆さんのインタビュー記事を読んでみて、いかがですか?
それぞれ違う場所で働きながらも、学生時代と変わらず介護福祉に対する想いを持ち続けていることが伝わってきて、嬉しく思いました。
働く意味にはもちろん“生活のため”という側面もありますが、それだけでなく、学生時代に学んだ介護福祉の仕事のすばらしさや、当時抱いた夢や想いを、これからも大切にしていってほしいと思います。
卒業生の皆さんへメッセージをお願いします!
学ぶ立場だった彼らが、今は後輩に伝える立場になりました。
これからは求める側ではなく「自分たちが何とかしよう」と、主体的に動ける先輩になってもらいたいなと思います。
学生時代から介護福祉を学んでいた彼らだからこそ、これからも夢を持って、その夢を後輩たちに伝えていける人になってほしいです。
卒業生にはずっと前から伝えているんですが、将来私が施設を作って、歴代の卒業生全員とそこで一緒に働けたらいいなっていう夢があるんです。教員と生徒として出会いましたが、いつか仕事の場で一緒になれる機会があったらいいなって。介護福祉についてそれぞれの3年間で一緒に考えて、学んできた仲間だから、きっと良いチームになれるんじゃないかと思っているんですけど(笑)。
実現できるその日まで、お互いに頑張りましょう!
元・津久井高校福祉科の林睦先生
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